ピオフィ短編

思惑どおりの花吹雪

…………オルロック?」
………おれ、ロズベルグ卿以外の人からなにか貰ったの……はじめて」

今日は恋人になって初めてのオルロックの誕生日を迎えていた。

私は奮発してプレゼントを用意して……ブルローネにある私の借りているアパートにオルロックを呼んだのだ。

「あけても……いい?」
「もちろん!」
オルロックは綺麗に包まれた包装を丁寧に解いていく。

プレゼントだけじゃない。
今日は豪華に食事も作ったし、ケーキも作った。
一応、お互いお酒も呑める年齢だから……珍しくワインも用意した。

オルロックは普段から食事も水も、家具でさえ生活できる最低限あればいいとか言って………お金はあるのに、ちゃんとした生活を送ろうとしない。

使徒の任務だったり、ブルローネでは情報屋として仕事をしているのでしょうがないといえばそうなのかもしれないけど……

こういう時くらいはせめて、贅沢をしてほしい。

…………これ」
オルロックは驚いたように目を見開いていた。
そっと箱の中から取り出したそれは………

今のところ世界に2本しかない、「私の部屋の合鍵」だ。

固まってしまった彼を見て、プレゼントは喜んでもらえなかったのかと私は言い訳のような説明を始めた。

「その……オルロックは仕事柄、物とか持ち歩けなさそうだなぁって。日用品とか食べ物にしようかとも思ったんだけど、それ全部叶えられるプレゼントってこれかなって……思って………。」

…………すき」
……え?」

2人サイズの小さなテーブルに向き合って座っていた私たちだったが、オルロックは椅子から立ち上がりテーブルに手をついて前のめりになった。

……すごく、嬉しい。ありがとう。………だいすき」
私の方へと手を伸ばし、そのまま頬に手を添えられ唇を優しく掠め取られた。

「合鍵くれるってことは………その、いつでもここに、きていいってこと、だよね?」
……あたりまえでしょ!」
私からもちゅ、とキスを返した。

もう少しでセバスティアーノ・ガリエの後処理も何とかなりそうだし、その後オルロックはドイツに行くことになるでしょ?それまでの間、短いけど、いつでも来て?……私もオルロックについていくからドイツでは一緒に住むことになるんだけどブルローネでもたくさん思い出作ろう?」

…………うん。ありがとう。おれ、すごくうれしい。」

「ほら、食べよう?今日はティラミスも作ったんだよ〜」
オルロックも私も椅子に再び座り、食事を再開する。
ワインもあるよ、呑む?と声をかけるとオルロックは心を決めたようにパッと顔を上げた。

「今日、………泊まっていっても……いい?」
「え………う、うん!」

思わぬ質問に驚いたが、もちろん!とぶんぶん縦に頷いた。

「おれ、こんなに幸せで……どうしたらいいか、分からない。」
ポロ、とオルロックの片目から涙が伝った。

……もう自分の幸せを考えてもいいんだよ。鍵の乙女も無事だし……聖遺物はファルツォーネに任せておけそうだし。ブルローネマフィアも今のとこ仲良しだしね!考えてないわけじゃ無いんでしょ?…………使徒を引退すること。」
私は手を伸ばしオルロックの涙を拭った。

まだ、どうするか、決めてはいないんだけど………、でも、絶対に、……名前のこと、これからも、守るから。………絶対に、幸せに、する。」
オルロックは涙を拭った私の手を優しく握った。
彼の瞳には、静かな炎が灯っていた。

 

**

 

「ねぇ………オルロックってザル…………なんだ?」
…………?あぁ、うん。おれ、酔ったこと、ないよ?」
今日のために準備したご飯も食べて、ティラミスも食べて、やっとワインで乾杯しているわけなんだけど………

オルロックは私よりペースが早い、なのに、全く酔っていない。

ベッドへ腰掛け座っている私は、サイドテーブルに空になった何杯目かのワイングラスを置いた。

隣に座るオルロックは少し心配そうに私を見ている。

………大丈夫?、いつもより、呑みすぎてない………?!」
私は無意識にオルロックに抱きついていた。

「えっ………えっ?名前……?どうしたの?」
心配そうに声をかけながら、戸惑いながらも私の背中にちゃんと手を回してくれている。

「オルロック………好き。大好き。…………愛してる。」
悔しいけど歳上の私の方が先に酔ってしまっている。

……嬉しい。おれも、だいすき。」
…………これから使徒の仕事を続けても続けなくても、その生活は絶対になんとかするつもりだから、私が。」
……………え」

ちゃんと普通に生活してほしい、それが私のただ一つの願いなのだ。
つい、ついオルロックの胸に力を込め、ベッドへと押し倒した。

…………名前…?」
オルロックは照れているのか戸惑っているのか少し赤くなっている。

……私と幸せに生きてくれるんでしょ?貴方の生活は私が面倒見るの!毎日美味しいもの食べて、ふかふかのベッドで寝て、毎年誕生日をお祝いするの。」
うん。」
オルロックは困ったように、少しはみかみながらこくりと頷いた。

「なんでオルロック……酔ってないの?ズルくない?」
私は押し倒したオルロックの着ていたシャツをズルズルと脱がせていく。
……え、まって、名前…!」

されるがままで、本気で抵抗しないオルロックからは簡単に服を脱がせることができた。

………っん、…………わ、……まっ………
焦るオルロックはとりあえず無視したまま、身体に残る傷跡にキスを落としていく。

……今日は、なんだか積極的……………、というか、呑みすぎ………!」
オルロックはたやすく私と位置を取り替えた。
いつの間にか見えるのはオルロックと、見慣れた私のアパートの天井。

さすがは―――、使徒サマ、だ。

「積極的なのも、うれしい。けど、こういうことは、……おれ、からしたい。」
…………ん」
頬を真っ赤に染めながら舌を絡めてくるオルロックが……とても愛しい。
そっと、優しく、私の腰に触れるその手も…………

たまらなく全てが愛しい。

………触っても、いい?」
…………うん。というか、もう私たちシたでしょ、こないだ。」

……………それは!……そう、なんだけど。」
オルロックは視線を泳がせながら、お互い始めてだった前回よりも、さらにそーっと壊物を扱うかのように触れてくる。

……好きにしていいよ。オルロック。」
………!」
「まだ、直ぐってわけにはいかないって分かっているけど…………
……………?」

オルロックは言葉の続きを促すかのように首を傾げた。

………家族、作ろうね、私たちの。」
……………それ、」

流石に言葉の意味が分からないわけではないだろう。

「おれ、ばっかり……もらってる。」
オルロックはコツンとおでこを合わせてきた。

…………どうやったら、伝わる、かな。」
伝わってるよ。」

顔を真っ赤にしたまま、目を細め、どこか苦しそうに言葉を絞り出すから………、私はわざとおちゃらけて提案してみた。

「そうだ!じゃあ……後で一緒にお風呂入ろう、ね?」

…………うん。あなたがいいなら。」
オルロックは素直に受け取り、頷いた。

そっと、スカートの中に手を入れ、太ももに触れてくる。
優しく触るから………少しくすぐったい。

……ふふっ」
………?」

「明日はお仕事お休みでしょ?」
「うん。特に予定は、ないけど…………。」

もう夜中だろうか。
私はサイドテーブルに置いてあるランプの火を吹いて消した。

……たくさん寝坊しようね、明日は。あ、じゃあ……お風呂は朝かな?」
………もう、すぐそういうこと、言う………。」

ワインに―――いや、オルロックとの幸せなこのひと時に酔っているから今日ぐらいは素直になっても許してくれるだろう。

オルロックの首に腕を回し、熱烈な夜に溺れていく。

―――こうして私は、彼に毎日毎日心を略奪されていくのだ。

 

**

 

…………おはよう……、オルロック……?」
……ん、おはよう。」

目が覚めたらオルロックはすでに目が覚めていたようで、私のおでこにちゅ、とキスをした。

………!」
………酔った名前も、可愛かった。でも、積極的すぎて………おれ、止められなかった。ごめん。身体……大丈夫?」

すぐに頭の中に浮かんできた昨日のことを思い出した。
お互い何度も求め合い、予想通りお風呂には入れず―――気付けばお互い裸で布団に入り眠りについていた。

………う、うん。………平気だよ。」
私がそう答えると、オルロックは指を絡めてきた。

……お風呂、一緒に、入るんだよね?」
……………う、」
オルロックは分かっていて効いているのだろうか。
あれは冗談だったと言うかお酒の勢いというか……

一緒にお風呂に入るのは正直恥ずかしい―――

でも言い出したのは私だ。
オルロックのことだし、まさか冗談とは思っていないのだろう。

……おれ、あなたの身体、洗っていい?」
…………え、え!」
洗うの!?私の身体!?と聞き返したかったが、オルロックが少しだけ上体を起こし私の方へと覗き込んだ。

……………………だめ?」

わざとやっているわけではないと知っている、天然でこれなのだ、彼は。

……だめじゃない。…………私も、オルロックのこと洗いたい。」
……ちょっと恥ずかしいけど、たのしみ……。」
にへ、と彼は心底嬉しそうに笑う。

これから人生で1番と言っても過言じゃないレベルの恥ずかしい思いをするんだろう、男性と。
恋人と一緒にお風呂に入る、なんて。

―――今のうちに覚悟を決めておいたほうが良さそうだ。

オルロックの予定は今日ないって再確認もしたし、お昼からは忙しくなりそうだ。

お風呂に入り終わったらゆっくり準備して―――、今日はヴィスコンティにも行きたいし、教会にもファルツォーネにも寄りたい。
ギルバートも、ダンテもリリィも、それぞれプレゼントを用意してくれているらしい。

もしかしたら楊……は祝ってなどくれないか。
ランとフェイは会ったらおめでとうって言ってくれそう。

勿論、全部本人には内緒だけど―――

驚く顔も、喜ぶ顔も、幸せを噛み締めて少し胸が苦しくなっちゃ彼の姿も―――全部ひっくるめて、楽しみだ。