ピオフィ短編

狂人は紙一重の愛情で

窓から入ってくる日の光が朝を告げる。
ここは船の中。連日船に乗って移動しているらしい。

―――何処へ向かっているかは知らない。

「もう朝が来てしまったね。―――でも、まだイきたりないだろう?」

このとち狂った男は、昨日の夜から身体を合わせているというのにまだまだ元気らしい。

「袁が規格外すぎるんでしょう!?」

そんな私の言葉は無視、愉しそうに笑いながら腰の動きを止めずに首に手を添える……サディストだ。

「っん、あっ、あっ、………いき、できなッ……
一体いつになったら解放してくれるのか。
毎日夜になると袁は私を部屋に呼び、身体を合わせるのだが―――、仕事で数日留守にしていたから今日は何日振りかの行為に及んでいる。

………お前は本当に飽きないね。……何でだろう?もう遊び始めて半年になるのに壊れないね。」
袁は私の首にかけた手の力を強めた。

…………っは、壊れる時は、袁も一緒に……道連れにしてやる。……大体ッ、私が、いなくなったら、困るのは貴方でしょ」

ギリギリと力を込められ息の通り道が塞がる。
苦しい、苦しい。―――でもこれがこの男の狂った愛し方なのだ。

「困るのは私…………か。」

私の首に込める力が抜けた。
その一瞬で袁の鎖骨に思いっきり噛み付いてやった。

…………!」
……油断してたら、寝首かかれるわよ袁。」
袁の鎖骨には小さな傷ができ、血がすぅと垂れる。

私は唇についた血をぺろりと舐め上げる。
酸素が薄くほんの少しだけ目が霞んでいて……袁の顔は確認出来ないけど、心底愉しそうに笑っているように見える。

―――私に血を流させる女なんて、他にはいないよ。」
………褒めてるの?光栄ね?」

与えられる快楽と、途切れそうな意識の中、どんなギリギリな状態でも強気に笑って見せる。

腰の動きを一気に激しくされ、奥の奥までゴツゴツと乱暴に突かれる。
「んっ、まっ……あぁあああんっ」

ビクビク、と何度目かも分からない絶頂に達する。
袁と身体を重ね、簡単に絶頂するようになってしまったし、潮も吹けるようになった。

もうどちらの白濁液なのかは分からない位にぐちゃぐちゃになっているそこから袁は肉棒を抜いた。

ビシャビシャと吹き出るそれを更に愉しそうにクツクツ笑いながら袁は眺めている。

「私専用の、私好みの身体だよ―――。ここも、私の形だね。」
……うそ、」
ドチュン、と再び蓋をされる音が聞こえた。

………ッ、んぁぁっ、やぁっ、も、らめっ……イっちゃ………
「挿れただけだよ?」

ビクビクと身体が弓形に反り、絶頂に達する。
それでも解放はしてくれない。

ここぞとばかりに腰を打ち付けられ、逃れられない快楽に涙がポロポロと溢れていく。
気持ちいい、頭が回らない、何も考えられない。

ゴリゴリ奥へ………子宮の入り口へ当てられているのがわかる。

壊れてもいいよ。一生私が飼ってあげるから。」
袁は息も絶え絶えで、おそらく焦点もあっていない私に優しく告げる。

「袁が………死ぬ時は、………私のことも、殺してね?」
お腹の中にあるそれが熱を帯び大きさを更に増す。

―――はははッ、飛んだ狂った女だねお前は!」
袁は珍しく声を上げて笑った。

「もッ…………やらっ…………ふぁ」
言葉にならない虚勢をあげる。

「飛ばしても辞めてやらないよ。」
一見ここは地獄のようだ。意識を飛ばしてもこの男は行為を続けるらしい。絶対に何度も達するのは快楽以上にしんどいのだ。

まぁ………この男にはそんなこと分かったところで何も変わらないか………と意識を飛ばした。

 

**

 

………袁?どこに行くの?」
「すぐ分かるよ。」

意識を飛ばしても本当に私のことを抱き続けていたらしいこの男は……、目が覚めた時も繋がったままだった。

その後お風呂に連れていかれ、袁にご奉仕をし、身体を洗い、一回だけ………またお風呂で抱かれたのだ。

まるで奴隷だな―――、なんて思っていると、ドレスや靴を一式渡され今車に乗っているというわけだ。

……身体は大丈夫なのかい?」
袁は視線だけ私によこし、思ってもいなさそうなことを口にする。
………当然よ。抱かれすぎて疼いてるくらいには。」
ククッ。それは良かったね。」

私は日本に住んでいたけれど、誘拐され海外のこの場所―――シカゴへ売られてきた。
運がなかったのだろう。黒髪で真っ白な肌は高値がつくらしく、袁に目をつけられオークションで競り落とされた。

日本では英語をちょっとばかし勉強していたので………それが小さな希望だった。言葉は分かった。………もう今では雑談ができるくらいには話せる。―――まぁこの男の前では意思疎通が出来ても無駄なのだが。

もう半年、袁が飽きるまで専用の女なのだと。
毎日毎日犯され痛めつけられ媚薬を盛られ………ご奉仕をした。
だが、ある日この男の顔をよく見てみたら「全く愉しそうではなかった」好き放題女を犯しているのに変な男だと、「楽しいって分からないんでしょ?」と言ってやったのだ。

殺されることも覚悟していたから「セックスって楽しいことよ?一方的に犯すだけでもね。」って言ったら首を絞められたことも

その日を境に更に私に更に興味を持ったのか、こうして可愛がってくれるようになったのだ。

―――恐ろしい話だが、私も彼に絆されてしまっているのかもしれない。

「着いたよ。」
車が止まり袁は先に私に降りろと促した。
降りるとそこは街だった。
…………?」

教会があって、時間はもう夕方だが―――人通りもたくさんあり賑やかな街だ。

「ブルローネ。イタリアだよ。……お前は初めてかな。」
袁は私の手を掴み歩き出す。

………お仕事?」
「勘の良い女は嫌いじゃない。正解だよ。」

袁はイタリアだと言うが………、路地を入り、中華っぽい街並みの場所へ辿り着いた。

……………………袁」
「あれ?……今日は何処かへ出掛けていたのかな?」

とある建物の入り口で、今まさに帰ってきたところなんだろう赤髪の男とバッタリあった。

その赤髪の男は袁をものすごく嫌そうな顔をして見た後、私へ視線をよこした。

…………意外だな。………………ついにイカれてしまったか?」
私を眺めながらその男は袁に言葉を続けた。

「そうなんだよ。楊。初めて気に入った女が出来てね。………いつも部屋に閉じ込めてばかりだから今日は連れてきたんだ。」
……………?」
話が全く読めない私は楊と呼ばれた男と視線を合わせた。

…………………お前が手をつけた女になど興味はない。そのわざとらしい印もお前らしいな。」
………楊。こんなところで何だし、中に入れてくれるよね?」

楊の言ってることは分からないが、とりあえず知り合いらしい。

……………………………チッ」
長い沈黙の後舌打ちをした楊は「好きにしろ」とだけ言い私たちは中へ入って行った。

扉のガラスに映った久しぶりに見た自分の身体―――、そこには肩や胸元、太ももを露出しているドレスだと言うのにあちこちに赤い痕が咲いていた。

……………ッ」
さっきの人が言っていたのはこれのことか!と少し恥ずかしくなった………が、ひとまず黙っておいた。

 

**

 

本当に仕事の話だったらしく―――広間に案内された私たちはテーブルに座り、袁と楊との仲の悪そうなよく分からない話を聞かされ、そしてまた車で港へ向かっている。

名前、外に出て見た感想は?」
……私は日本しか知らないからどんな場所でも楽しいわ。」
……………
袁は急に無言になって私を見つめる。

あの楊って呼ばれていた男の人、あなたに似てるけど、似てないわね。」
………!」
予想外の言葉だったのか彼は驚いて少しだけ目を見開いた。

「彼は、あなたと違って、楽しいを知っている人ね?」
その言葉が気に障ったのか袁は私の後頭部を乱暴に掴み、口付ける。

「んっ………!?」
「お前はここで犯されたいのか?」
袁は獲物を捕らえた目で―――、私のドレスのスリットから下着の紐を解いた。

「馬鹿ッ……車の中でしょ!?………運転手さんもいるの…………にッ!?」
運転手さんは袁の部下だが、気まずそうに視線を泳がせているのが分かった。

……んあっ、やっ…………やだっ………待っ」
私の両膝を開かせ、袁の方へ開かせる。

―――私に指図するのかな?」
………ッ、ひあっ!んっ、んううっ」

車の中で、それに……知らない人だっているのに何も纏っていないそこに袁は舌を這わし、捻じ込んだ。

「あんっ、ッやぁ………もおッ……

ぴちゃぴちゃと水温がなり、私のものもトロトロと溢れていくのが分かる。

「帰ったら……分かってるね?」
……………ッ!」

絶頂にもうすぐで達したと言うのに。
この男はわざとここでやめた。

―――我慢、できない?」

何も答えたくはないのだけど、つい腰が快楽を求めて動いてしまう。

………欲しい。袁、今ここで…………犯して?」
私も相当イカれてしまっていると思う。
濡れそぼったそこを自分の両手で広げて見せ、腰をくい、と前後に動かした。

愉しい感情がわからないという彼だが―――、最近は私と身体を合わせている時だけ…………本当に愉しそうにする。
表情に動きに、瞳に、身体に………彼自身に色が灯るのだ。

今もそう。愉しそうに笑う。

「しょうがないね。……そう育てたのも私だから―――責任を取ってあげようか。」

まるで死神―――、いや、彼に似合うのはタナトスかな。
私はそんなタナトスの踵にでも這いつくばっている女の1人なんだろう。

ガチャガチャと腰のベルトを外す音を耳にしながら、車は港へと向かった。

その後も船内に戻るなり身体を重ね続けた。
あの時車を運転してくれていた、私たちの行為を目撃せざるを得なかったあの男性は―――あれから見ていない。

 

**

 

「袁起きて。朝よ。」
………………

珍しい。あの袁が寝こけている。
袁はいつも私が眠ってから自分も寝るし、私が起きたら既に起きている。

彼の生存本能がそうさせるのだろうか

買われて半年、毎日時間を共にしているのに初めて寝顔を見た。

―――この人幾つなんだ?
そんな疑問が浮かんでは消える。
30………40…?彼の寝顔はいつもより幼く見えた。

「袁、私今日のあなたの予定を知らないのだけど―――起きなくて大丈夫なの?」
袁から声は返ってこない。

……………はぁ」
この男は一体何なんだ、と思いながらそっと袁の上に馬乗りになり唇を合わせる。

「ちゅ…………ん、袁、起き…………て。」
舌を無理やりねじ込んだ瞬間、袁の手が私の首を捕らえた。

………………!」
「袁、おはよう。初めて見たわ……あなたの可愛い寝顔。」
いつものことだし、と首に手を添えられても怯むことなく笑顔で挨拶した。

………私が、眠って………いた?」
私の首に添えた手を下ろし、上体をゆっくり起こす袁。

「え?なに、もしかしていつも眠っていないの?」
袁の上から退こうとしたが、抱きしめられそれは叶わなかった。

……………………袁?」

無言で抱き締めてくる袁に少し不安を覚え、様子を伺う。

…………名前、お前はどうしたら私のものになるんだろう。」
…………私はあなたのものよ。買ってくれたじゃない。貴方が手放すまで―――永遠に袁の所有物よ?」

袁は満足した答えじゃなかったのか、顔は上げない。

…………私、この半年でイカれてしまったから……。袁を愛してしまうくらいには。」
………………、」
ゆっくり袁は顔を上げた。

「イカれてる貴方が好きよ。死ぬ時は貴方に殺されたいわ、私。……でも、貴方のものにしたいならもうちょっっっとだけ優しくしてくれてもいいんじゃない?」
勝ち誇ったように笑い、袁に言ってやった。

………はッ、お前も相当イカれてるよ。……………………。」

犯され傷つけられている間に見つけてしまった袁という「愉しい」と言う感情を知らない男の人を―――私は愛してしまった。

………ん」
袁はそのまま目の前の私の唇を優しく塞ぐ。

この半年間、例に見ないくらいの優しく、甘く絡めとるようなキスだった―――